<理化学研究所> アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子を解明
「アトピー性皮膚炎」は、日本を含めた先進国の乳幼児によくみられる炎症性皮膚疾患です。繰り返す“痒みの強い湿疹”と免疫グロブリン(IgE)の産生上昇などによる“アレルギー様反応”が問題です。遺伝要因と環境要因の複合によって発症すると考えられています。しかし、詳しい発症メカニズムは不明で、発症経過を忠実に再現するモデルマウスはこれまでに存在していませんでした。
2016年4月26日 – 理化学研究所
理研の研究者を中心とした共同研究グループは、エチルニトロソウレアという「化学変異原」をマウスに投与し、ゲノムに変異を起こすことにより、突然変異マウスを作製しました。50家系、3,000匹のマウスの表現型解析の結果、アトピー性皮膚炎を自然発症するマウスを発見しました。このマウスは清潔な環境で飼育しても、生後8~10週間でアトピー性皮膚炎を発症し、段階を追った病状経過をたどりました。そのため、「多段階進行性アトピー性皮膚炎マウス(Spadeマウス)」と名付けました。Spadeマウスで、病気の原因となる遺伝子変異を調べたところ、細胞の増殖や分化に重要な「サイトカイン」のシグナル伝達因子である「JAK1」分子の遺伝子配列に点突然変異(1塩基の変異)が生じ、JAK1のリン酸化酵素であるキナーゼ活性が増加していることを突き止めました。これにより、発症前から表皮細胞の古い角質が剥がれるときに発現するプロテアーゼ(ペプチドの加水分解酵素)群の遺伝子発現が上昇し、角質による“皮膚バリア”に機能障害が起きていることが分かりました。
今回の研究で、分かったことをまとめてみましょう。通常は表皮の中で、JAK1とSTATの信号伝達分子がプロテアーゼ(加水分解酵素)発現を適正に保つことで、皮膚バリアの恒常性を保っています。ところが、JAK1シグナルが強く入ると皮膚バリアが破壊され、真皮(表皮の下にある線維性結合組織)の自然免疫系の活性化も招いて、アトピー性皮膚炎発症に至ります。しかし、表皮にJAK阻害剤、あるいはワセリンを塗ることで発症を予防できます(図参照)。
今回作製したSpadeマウスを用いることによって、アトピー性皮膚炎発症に関わる複数の要因を分子レベル、細胞レベルで明らかにできることから、それぞれのターゲットを決めた発症予防や治療法の確立につながると期待できます。
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