アライグマ回虫 – 寄生虫シリーズ
北米原産のアライグマに普通に見られるアライグマ回虫は、基本的にアライグマ以外の動物で成虫になることはありませんが、ヒトがその虫卵を経口摂取すると幼虫移行症を引き起こし、致死的な中枢神経障害の原因となります。わが国では、1977年のアライグマを主人公としたテレビアニメの放映以来、多い年には年間1,500頭を数えるアライグマが輸入されており、これらのアライグマからヒトへの感染を防ぐ注意が必要となっています。米国では1981年の初発例以来、アライグマ回虫の感染を原因とする重症脳障害患者が少なくとも12例確認され、そのうち10 例は6歳以下の小児で、3 名が死亡しています。わが国では、人への感染事例は、現在まで報告されていません。
アライグマ回虫の病原体
アライグマ回虫の成虫は円筒形で、長さが雄で9〜11cm、雌で20〜22cmあり、アライグマの小腸に寄生します。虫卵は糞便を通じて外界に放出されますが、115,000〜179,000個/雌虫/日という膨大な産卵量があります。これらの虫卵が11〜14日経過すると卵内に感染幼虫が育ち、幼虫包蔵卵となり、これが病原体となります。ヒトが幼虫包蔵卵を経口摂取したときは、それらは成虫にまで発育できず幼虫のまま体内各所を移動します。そして、固有宿主のアライグマでは認められない激しい病気を引き起こすことになり、これをアライグマ回虫による幼虫移行症と呼びます。
アライグマ回虫の症状
- 神経幼虫移行症:好酸球性髄膜脳炎として発症します。一命を取りとめた症例でも、発育障害や神経系の後遺症が認められます。
- 眼幼虫移行症:成人を中心に網膜炎として発症します。視力障害が残り、失明することもあります。
アライグマ回虫の幼虫移行症は、イヌ回虫やネコ回虫の幼虫移行症に較べて重篤な場合が多いのですが、これは、体内移行中の幼虫がイヌ・ネコ回虫では0.5mm以下であるのに対し、アライグマ回虫では2.0mm近くにまで急速に発育して体内を移行し、特に中枢神経系での障害が激しいためです。
アライグマ回虫の予防
アライグマの糞に含まれている可能性があるアライグマ回虫卵が唯一の感染源となるので、アライグマの糞で汚染された土壌その他を口に入れるのを避けることが重要です。わが国でのアライグマは、(1)動物園その他で展示用に飼育されているもの、(2)施設や家庭でペットとして飼育されているか、動物業者の元にいるもの、(3)「野生化」して野外で生活しているもの、などのいずれかです。このうち(1)と(2)では、寄生個体が1頭でも見つかった場合には虫卵の不活化処理を完全に行うことが必要です。虫卵を死滅させるには薬剤は殆ど効果がなく、煮 沸・焼却などの高温での処置のみが有効です。また、(3)の「野生化」アライグマに関しては直接の接触を避け、アライグマが糞をする場所には近づかないなどの注意が必要です。
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