トキソプラズマ症 – 寄生虫シリーズ
トキソプラズマ症は、トキソプラズマという寄生性原生生物(原虫)が引き起こす感染症です。全人類の1/3以上(数十億人)が感染しているとされるなど非常に広く蔓延していることが知られています。健常者が感染した場合は、免疫系の働きにより臨床症状は顕在化しないか軽度の急性感染症状を経過した後で、生涯にわたり保虫者となりますが、HIV感染患者などの免疫不全者には重篤な症状を引き起こすため、十分な注意が必要です。また、妊娠中の女性が感染することによって起こる先天性トキソプラズマ症は、死産および自然流産だけではなく、子どもに精神遅滞、視力障害、脳性麻痺など重篤な症状をもたらすことがあります。日本では主な感染源として従来豚肉が重要視されてきました。ブタのトキソプラズマ症の報告については少なくなってきているものの、依然として報告例があり、特に沖縄県においてはむしろ発生数に増加傾向が見られ、注意が必要です。
トキソプラズマ症の病原体
出典:厚生労働省戸山研究所
トキソプラズマ症の病原体であるトキソプラズマは、幅3µm、長さ5-7µmの半円〜三日月形をした原虫です。トキソプラズマのヒトに対する感染は、加熱の不十分な食肉に含まれる組織シスト(丈夫な壁に包まれた多数の虫体)、あるいはネコ糞便に含まれるオーシスト(ネコ科動物の腸管内で有性生殖により作られる虫卵)の経口摂取によって生じます。眼瞼結膜からも感染しますが、空気感染、経皮感染はありません。
トキソプラズマ症の症状
健康成人または小児が後天的にトキソプラズマに感染した場合、多くは無症状で経過します。発症した場合には、発熱や倦怠感やリンパ節腫脹などの非特異的な一過性の症状が起こります。また、眼に孤発して発症する眼トキソプラズマ症では、視力障害、眼痛、羞明などが見られます。特に免疫不全者では、体内に潜伏感染していたトキソプラズマが再活性化し、脳炎や肺炎や脈絡網膜炎などの重篤な症状を引き起こします。
トキソプラズマ症の予防
トキソプラズマは全ての温血動物に感染可能であるため、魚介類を除き、哺乳類である鯨を含めた獣肉や鳥肉の生食や、加熱不十分な獣肉の摂取は常に感染のリスクを伴います。妊婦もしくはその可能性のある方は、肉の生食は控えるとともに、肉を調理する際には、中心部まで十分に加熱すること、まな板を肉用とその他用に分けるなどの対応が必要です。また、ガーデニングやすな場など土壌との接触、感染したネコとの接触、井戸水、わき水等の無処理の生水の摂取は感染の確率を上昇させます。環境からのトキソプラズマ感染はネコの糞便に含まれるオーシストが原因なので、糞便の処理(トイレ容器の熱湯消毒)を毎日実施することによって感染力のあるオーシストとの接触を回避することができます。オーシストは-20ºCで1ヶ月程度生存可能で、また次亜塩素酸やエタノールを含む多くの消毒剤が無効であるため注意が必要です。特に、妊娠を理由に飼いネコを処分する必要はありませんが、猫の糞便の処理は妊婦以外の人が行うようにしましょう。
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