<東京都>命のガイド 点字で刻む 「東京防災」訳 ボランティアが自作
東京都が災害への備えをまとめ、都民に全戸配布したハンドブック「東京防災」には、点字版がない。本紙読者の点訳ボランティア田村和枝さん(72)=中野区=は「都の対応に不備がある」と考え、点字版を自作し、視覚障害がある人たちに贈った。都は、田村さんや障害者団体などからの指摘を受け、年内にも点字版を用意する方針を固めた。 (小野沢健太)
昨年末、田村さんは視覚障害のある鍼灸(しんきゅう)師の友人に施術をしてもらいながら「東京防災」を話題にしたところ、友人は内容を知らなかった。自宅に届いたことは家族から聞いていたが、読むことができないからだ。
田村さんはすぐに都へ電話したが、点字版はなく、当時は作製にも「予算がないので…」などと後ろ向きだった。
「障害がある人たちにこそ必要な情報なのに…」。業を煮やした田村さんは今年一月、自分で作ろうと、点訳サークルの仲間たちと点訳を開始。約二カ月で全四巻、計四百三十二ページの点字版を完成させた。自費で三セットを作り、鍼灸師ら知人三人に贈った。「命にかかわることなのに、都の対応は遅すぎる」と憤る。
一方で、都は発行時、視覚障害者向けの本も約四万部を用意し、各区市町村や障害者団体に配った。ただ、ページごとに印刷された「音声コード」を、専用の読み取り機やスマートフォンにかざすと音声で読み上げる仕組みの一種類だけ。高齢の障害者は、機械の操作が苦手だったり、耳も不自由だったりして使いにくい。都盲人福祉協会の笹川吉彦会長(82)は「個々の障害者によって活用できる手段は異なる。一方的な対応ではなく、私たちの立場になって考えてほしい」と批判する。
都総合防災部によると、東京防災の作製段階で、一部の視覚障害者から音声コードを勧める意見があったが、ほかに幅広く意見を聞くことはなかったという。担当者は「視覚障害者の意見も聞いた上で作ったつもりだった」と釈明。約五百万円の予算を投じ、点字版、CD、カセットテープを各二百部ずつ作り、年内をめどに各区市町村の図書館などに配る。
<東京防災> 都が昨年9月に750万部を作製。大震災の発生から避難、生活再建までの流れに沿って、注意点を説明。障害者ら配慮が必要な人がいる世帯には避難先を事前に確認したり、日常的に近所とあいさつを交わしたりすることを呼びかけている。事業費は約20億円。昨年11月には1冊140円で発売。書店など141店舗に29万部を出荷した。
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