新生児に障がい「トーチ症候群」 母子感染防ぐ知の灯火を
母子感染症の怖さを知ってほしい-。妊娠中の母親が感染して、生まれた赤ちゃんの脳や耳、目などに障がいが出る「トーチ症候群」。原因となる病原体「トキソプラズマ」や「サイトメガロウイルス」などの認知度が低く、患者らでつくる「トーチの会」が周知に力を入れている。娘を亡くしたアメリカの母親の体験記の翻訳本出版も目指す。 (細川暁子)
トーチ症候群は母子感染症の総称で、英語で「TORCH」と表記される。「トキソプラズマ症」の「T」など、妊娠中の母親から胎児に感染する病原体の英語の頭文字を組み合わせており、「風疹」「サイトメガロウイルス」「単純ヘルペス」「梅毒」などが含まれる。トーチ症候群の赤ちゃんには脳の発達が十分でない「小頭症」や、小さく生まれるなどの症状が出る。
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東京都豊島区の歯科医師渡辺智美さん(35)は、二〇一一年に出産した長女が「先天性トキソプラズマ症」と診断された。「トキソプラズマ」は寄生虫で、女性が妊娠中に生肉を食べたり土いじりしたりすることで体内に入り、胎児に感染することがある。渡辺さんはそれを知らず妊娠中に生肉を食べたことがあり、長女は軽いまひなど生まれつきの障がいがある。
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渡辺さんは「母子感染症の怖さを伝えたい」と、一二年に患者会「トーチの会」を設立。「トキソプラズマ」と同様にワクチンがなく、妊婦健診の抗体検査も必須でないため認知度が低い「サイトメガロウイルス」の周知に力を入れる。
サイトメガロウイルスは多くの人が乳幼児期に自然に感染しており、ほとんど症状は出ない。ただ妊娠中に初めて感染すると、赤ちゃんに小頭症や難聴などの障がいが出る可能性がある。幼い子どもの尿や唾液を経由して感染する場合が多く、特に育児中や保育士の妊婦は要注意。「小さな子どもと食器を共有しない」「食べ残しを口にしない」などの予防策が大切だ。
日本小児感染症学会の全国調査から、年間約百人が先天性サイトメガロウイルスと、年間約十人が先天性トキソプラズマと診断されていると推定される。だが「トーチの会」顧問で、長崎大病院小児科の森内浩幸教授は「見逃されている新生児はそれぞれ、十倍はいるのでは」と話す。
娘亡くした米女性「知っていれば…」
「トーチの会」は、先天性サイトメガロウイルスの感染が原因で娘を亡くしたアメリカの女性による体験記の翻訳出版を目指している。
リサ・サンダースさんは2006年、娘のエリザベスさんを16歳で亡くした。エリザベスさんは心身に障がいがあり、生涯てんかんに苦しんだ。
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リサさんによると、サイトメガロウイルスの認知度はアメリカでも低い。妊娠中に子どもとキスをしたり、唾液がついたおもちゃを触ったりして感染する危険性をリサさんも知らなかった。「エリザベスの苦しみを防げたなら、妊娠中にどんな予防策も取っていたのに」とリサさん。08年、サイトメガロウイルスの予防策についても触れた体験記をアメリカで出版した。
トーチの会は、リサさんの思いを伝えたいと、日本での翻訳本の出版に向け準備を進めており、出資者を募っている。詳しくはホームページ(会名で検索)の「お問い合わせ」から連絡。ホームページでは、母子感染症の予防策も紹介している。
【トーチの会】先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会
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