虫よけ剤に「危険な成分」? 1946年に米国で開発された「ディート」 子供に使っても大丈夫なのか

夏の外遊びで蚊やブユに刺される子供は多いが、保育園などでは化学物質「ディート」を含むスプレータイプの虫よけ剤(防虫剤)を禁止しているところもある。ディートの毒性を心配しての対応のようだ。虫刺され対策は虫よけ剤だけではないが、頻繁に蚊に刺されるような場所に出掛ける場合は、柔軟な対応が求められる。(平沢裕子)

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産経新聞

虫よけ剤に「危険な成分」? 1946年に米国で開発された「ディート」 子供に使っても大丈夫なのか

乳幼児に使用制限

 東京都豊島区の会社員女性は、休日に公園へ出掛けるときは必ず長女の腕や脚に虫よけ剤をスプレーする。長女は肌が弱く、蚊に刺されたところが大きく腫れ上がるためだ。ただ、保育園では虫よけ剤を使ってくれず、日中に公園などで外遊びをすると蚊に刺されて帰ってくることが多い。女性は「昨夏、長女が蚊に刺されたところをかきむしり、とびひ(伝染性濃痂疹)になった痕が今も残っている。保育園に虫よけ剤を使ってほしいと頼んだが、『子供には危険な成分が入っている』といわれ、逆に心配になった」と話す。
虫よけスプレー
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 虫よけ剤は、虫を寄り付かなくする薬で、その主成分がディートだ。ディートは、1946年に米国で開発された化学物質。蚊やブヨ、ダニなど吸血性の昆虫に高い効果があり、世界中で子供も含めて広く使われている。日本でも昭和37年から多くの虫よけ剤の主成分として使われ、これまでに重篤な健康被害などの事例はない。
ただ、海外の動物実験でディートの神経毒性が疑われ、国民生活センターは平成17年6月、厚生労働省や殺虫剤メーカーに対し、子供への安全性の検討や使用上限量などの表示を要望した。これを受けて厚労省は同年8月、虫よけ剤の添付文書を改訂し、6カ月未満の乳児には使用しない▽6カ月以上2歳未満は1日1回▽2歳以上12歳未満は1日1~3回-など子供への使用制限を盛り込むよう通知を出した。

感染症流行地は推奨

 その後の動物実験で、神経毒性について「影響は認められない」との結果が20年に出たが、子供への使用制限は変わらないまま。関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「今も子供への使用制限があることで、『子供に使うと危険』と考える保育園があるのではないか」と推測する。
 今春から子供への使用制限がない新成分「イカリジン」を含む虫よけ剤が発売されたが、市販品の多くは今もディートが主成分だ。
 海外では子供への使用制限がない国もある。ディートの有効性について検討した海外の論文では、マラリアや、このところ警戒心が高まっているデング熱、さらに海外で流行しているジカ熱(ジカウイルス感染症)など蚊が媒介する感染症のリスクが高い場合は使用を推奨している。

 日本では現在、これらの感染症を媒介する蚊は確認されておらず、東京大大学院農学生命科学研究科の山田章雄教授(獣医公衆衛生学)は「国内ではSFTS(重症熱性血小板減少症候群)や日本紅斑熱、ツツガムシ病などダニ媒介性感染症の流行地を除けば、感染症対策として積極的に虫よけ剤を使用する必要は現時点ではない」と指摘する。

蚊を発生させない

 ただ、虫刺されのリスクは感染症だけではない。蚊に刺されたところが異常に腫れる「蚊刺(ぶんし)過敏症」や、かゆくてかきむしってできた傷に細菌が入って「とびひ」になることもある。とびひは、抗菌薬で1週間ほどで治るが、抗菌薬に抵抗性を持つ細菌では治療が長期化する他、まれに腎炎などの病気を引き起こす。蚊に刺されて嫌な思いをした子供が、外遊びを嫌いになる可能性もある。
蚊対策
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 虫よけ対策は、虫よけ剤を使うだけでなく、長袖・長ズボンの着用も勧められる。また、水がたまる廃タイヤやプランターの皿を子供が遊ぶ場所に放置しないなど、蚊が発生しにくい環境を作ることも大切だ。
 感染症の専門家で、小児科医でもある川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「化学物質に無毒のものはないが、ディートの毒性は極めて低い。屋外の蚊がいそうなところで子供が遊ぶときには、使用法を守って使えばいいのでは」と話している。

 ◇  ◇  ◇

 スプレータイプの虫よけ剤で心配なのは、子供がいたずらをして大量に吸い込んだり、目に入ってしまったりすることだ。実際、過去に子供同士で虫よけスプレーをかけあった事例が報告されている。厚生労働省によると、家庭用品による吸入事故で最も多いのは殺虫・防虫剤で、平成26年度は258件と吸入事故全体の24%を占めている。
 防虫剤に限らず、スプレー製品は子供の手の届かないところに保管することが大切だ。


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