結核猛威、耐性菌も深刻 危機的状況 認識を改めよ
【論説】「結核」は今、世界で最も猛威を振るっている感染症だ。その上、従来の抗生物質が効かない多剤耐性結核の広がりが深刻化している。WHO(世界保健機関)は先ごろ、耐性結核の発見・治療を短期間に安価にできる新手法を奨励する声明を発表した。多剤耐性結核がこれまで以上に危機的状況にあると世界が認識を改めなければならない。
決して「もう終わった病気」ではない日本でも、毎年2万人前後の新規患者があり、約2千人が亡くなっている。世界に目を向けるとさらに悲惨だ。2014年の新たな結核罹患(りかん)者は960万人。インド220万人、インドネシア100万人、中国93万人が目立ち、拡大傾向は15年以降も衰えていない。死者150万人(WHO14年推計値)はエイズを上回り、全感染症の中で最多。執拗(しつよう)で侮れぬ病気である。
新規罹患者のうち、多剤耐性結核の患者は推定48万人。インド、中国、ロシアが半数以上を占め、死者は年間19万人と推定される。
多剤耐性菌は近ごろ、結核に限らずさまざまな感染症に出現している。悪いことに現時点で耐性菌に対抗できる「最後の砦(とりで)」といわれる最強の治療薬「コリスチン」も効かなくする遺伝子を持つ大腸菌が、昨年の中国に続き米国でも先月末初めて人から見つかった。
この強烈な菌は今のところコリスチン以外の抗生物質が効いているが、人の体内で耐性菌に遺伝子が移ると、全ての抗生物質が効かない菌が誕生しかねないという。中国の発見以降、日本を含む数カ国では家畜に見つかっている。抗生物質の過剰使用が原因と疑われ、有効治療薬がなくなる事態が心配されている。
エイズ、マラリアと並ぶ3大感染症の結核は、途上国での発生が多いため、年間新規患者の37%にあたる360万人が治療を受けられずにいる。WHOも世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)も、治療の普及と耐性菌との戦いに危機感をにじませる。
高齢日本は新規患者の7割超が60歳以上で、特に65歳以上の増加が要注意。昔の流行時に感染し加齢で体が弱って発症するようだ。ただ耐性結核が数年来1%未満と横ばい推移しているのは不幸中の幸いである。
とはいえ人口10万人に対する結核患者15・4人は、各国(米国2・8、独5・1、豪5・4人)に比べ高い水準にあり、国際社会の中で「結核中まん延国」から抜け出していないと厚労省は警鐘を鳴らしている。
感染症は社会的弱者の中でまん延する。結核の場合は耐性菌のほか、エイズとの重複感染も重い課題だ。360万の治療格差を埋めるために、世界の努力と協力が真に求められる。
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