味噌汁、カレー、丼物まで… 簡単調理のフリーズドライ食品が拡大中 災害時の非常食にも
少量のお湯を注ぐだけで食べられるフリーズドライ食品市場が急拡大している。みそ汁やスープなどの定番に加え、カレーやリゾット、丼の具など豊富なメニューが登場。手軽さから高齢者が食卓に取り入れたり、単身者や忙しい人が常備食として活用したりしている。(櫛田寿宏)
◆歯応えもよく
「とろりとした卵の食感と、だしの利いたやさしい味わいに驚きました」
東京都内に住む会社員の女性(38)は風邪をひいて夕食を作る気力がなかった際、4歳の長男にフリーズドライの具を使った親子丼を出してみた。長男は「おいしい」と、あっという間に完食した。
たまたま知人にもらったものだったが、以来、自分でも通信販売で購入。「ちょっとおなかがすいたときや、忙しいときに便利です」と話す。
神奈川県に住む夫と2人暮らしの女性(70)はみそ汁を常備。特にナスの具材がお気に入りで、「歯応えが程よく、みそやだしの風味もいい」。友人にも薦めているという。フリーズドライ食品は、急速に需要を伸ばしている。
食品大手、永谷園(東京都港区)では、平成27年度の売り上げが4年間で5倍に伸びた。主力はみそ汁で、購入者の約半分は60代以上という。食品大手、アサヒグループ食品(渋谷区)のアマノフーズも、20年に141億円だった売り上げは右肩上がり。昨年は226億円と1・6倍に伸長した。
同社では、みそ汁などの定番のほかカレーや親子丼の具、リゾット、パスタなど計約200種を販売する。
昨年は「チキンカツの玉子とじ」、今年は「とんかつの玉子とじ」などフリーズドライ食品の常識を覆す新商品を通販限定で発売し、話題となった。いずれも食べ応えがあり、若年層にも受けているという。
アサヒグループ食品アマノマーケティング部の真鍋太郎担当課長は「楽しい商品を提案したことで、フリーズドライ食品のイメージ刷新につながった」とする。
◆栄養分解せず
フリーズドライ製法は、食品を凍らせたまま真空状態にして乾燥させる。アマノフーズでは、みそ汁を1食分ずつ型に入れ、マイナス30度で8時間以上かけ凍結。その後、乾燥機に入れ真空状態にして水分を抜く。東京海洋大の鈴木徹教授(食品冷凍学)は「乾燥させる際に熱を加えないので、食品の栄養分が分解されない。また、味や香りも化学的に変化することがないので、おいしさが保たれる」とそのメリットを説明する。
フリーズドライは20世紀に入ってから、英国で医薬品を製造する技術として研究が始まったとされる。日本では昭和30年代にインスタントコーヒーが発売されたのが始まりだ。当時、この技術は珍しく、49年に発売した永谷園の「あさげ」は、一般的な即席のみそ汁が1食10円だった時代に40円で売り出されるほど。
カップ麺の具材にフリーズドライ製法が使われて広く知られるようになり、平成に入ってからの卵スープの大ヒットなどを経て人気が定着。「減塩」や「具だくさん」など時代のニーズに合わせてバラエティーが広がり、技術の進歩で味や食感も向上している。
◆非常食として
少量のお湯を注いで数十秒、賞味期間も1年と長いものが多く、軽くて携帯性に富んでいることから東日本大震災以降、災害時の非常食としても注目を集めている。
調査会社、富士経済東京マーケティング本部の河野賢太さんは「災害に備え、日常の食事で食べながら減った分を買い足すローリングストック(循環備蓄)に取り組む人も増えている」と話している。
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