<愛知県>学生向けにHIV講習…若いうちから正しい知識
◆患者が体験談、現状伝える
治療薬の進歩で長生きできる病になった HIV(エイズウイルス) 感染症だが、偏見や誤解は根強い。先入観を持たない若いうちに正しい知識を身に付けてほしいと、国立病院機構名古屋医療センター(名古屋市)が行う学生向け講習に関心が集まっている。
「さっき、病院に着いた皆さんのそばを僕は追い越していったんですよ。患者だと気づいた人いる?」
ジーパン姿の男性(66)が笑顔で問いかけると、同センターの会議室に集まった高校生たちは首を横に振った。
男性は10年前にエイズを発症したが、今では薬でウイルスが血液中に見られなくなるまで安定した。この日、医療職を目指す岐阜県立大垣北高校の生徒40人を対象としたHIV講習会に講師として招かれた。
エイズ総合診療部長の 横幕能行(よこまくよしゆき)さんは「どんな症状が出ました?」「誰に病気を伝えてますか?」など男性に尋ねながら診療現場からの講義を進める。患者に体験を話してもらうことで、リアルに病気や治療の現状を伝えたいからだ。同性間の性感染が多いこと、高額な薬を一生飲み続けなければならず、周囲に隠している人が多いこと――。
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医師を目指す後藤峻平さん(15)は「家族関係など患者の生活を知り、医療スタッフみんなで患者と信頼関係を築かないと治療が続けられない病気だと実感した」と語る。男性と昼食を食べながら談笑した田中瑞季さん(16)は「目の前で患者さんの話を聞いて、普通に生活できるのだと納得できました」と話した。
臨床心理士の指導で、患者役と医師役に分かれ、感染を告知するロールプレイも行う。「受け入れられない」「患者にわかる言葉で伝えるのは難しい」と戸惑いの声が上がる。
また、HIV検査の実習をしたり感染した細胞を顕微鏡でのぞいたりした。様々な分野の研究者が日々努力していることを実感してもらう。防音壁や音響装置で診療の声が漏れないよう配慮した診察室も見学した。
この講習は、横幕さんの発案で3年前に始めた。HIVの治療は向上したが、「死の病」というイメージは残ったまま。高齢化し、様々な合併症を抱えるようになった患者の治療や介護を拒否する施設も多く、社会に正しい理解を広げることが課題になっている。
大垣北高校は横幕さんの母校で、養護教諭の田中智保美さんがHIV教育に力を入れており、国際的な医療を学ぶ授業の一環として実現した。田中さんは「将来リーダーになる子どもたちが、社会に良い影響を与えてほしい」と話す。
静岡県の藤枝特別支援学校焼津分校での出張講義などに講習は広がり、これまで500人が受講した。過去の感想文には、「偏見や差別をなくしたい」「感染者が暮らしやすい社会を作るべきだ」との言葉が並ぶ。
横幕さんは、「素直で特定の価値観に縛られていない時期に正しい知識を身に付けてもらう効果は計り知れない。性的マイノリティーについて理解するにもいいタイミング。多様な価値観を受け入れられる大人に育ってほしい」と話す。
※HIV(エイズウイルス)
ヒト免疫不全ウイルス。治療しなければ増殖し、通常なら免疫で排除できる細菌やウイルスに感染しやすくなる。感染し、肺炎や悪性腫瘍など指定された23の病気のいずれかを発症した状態を「エイズ(後天性免疫不全症候群)」と呼ぶ。(岩永直子)
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