<ユニセフ> 肥満と低栄養 アジアの子どもたちが抱える二つの課題 ユニセフ等、共同報告書で指摘
【2016年3月28日 バンコク発】
ユニセフ(国連児童基金)は、世界保健機関(WHO)および東南アジア諸国連合(ASEAN)との共同報告書の中で、東南アジアの子どもたちの栄養状態に関して新たに焦点を当てています。本報告書は、ASEANの国々が栄養過多と低栄養の同時危機、つまり過体重の子どもたちがいる一方で、発育阻害や消耗症に苦しむ子どもたちもいるという状況に直面していると報告しています。この「栄養不良の二重負荷」は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイを含めた中所得国で発生しています。
インドネシアでは、12パーセントの子どもたちが過体重で、12パーセントの子どもたちが消耗症と、両者の割合はちょうど同じです。タイでは、子どもの消耗症と過体重はともに増加しており、2006年から2012年にかけて、消耗症は5パーセントから7パーセントに、過体重は8パーセントから11パーセントに増加しました。
過体重と低栄養の要因には関連性があります。幼少期に発育が阻害された子どもは、その後の人生で過体重となるリスクがより高いのです。過体重となるリスクは、スナックや飲み物(トランス脂肪や糖分の含量が高く、栄養価の低いもの)の摂取増加、運動不足、体を動かさない生活習慣により高まります。これがこの地域の多くの国で目立っている傾向で、糖尿病や心臓病などの慢性疾患の発生が著しく増加することにつながります。「東南アジアの多くの国は過去10年間で目覚ましい経済発展を遂げ、多くの子どもたちを貧困から救いました」とユニセフ東アジア・太平洋地域事務所のクリスティアーヌ・ルデルト栄養アドバイザーは話します。「しかし同時に、肥満など、これまで高所得国の問題と考えられていた健康状態の増加が見受けられます。アジアの子どもたちはいま、両極端の栄養不良のリスクに直面しているのです」
発育阻害と消耗症は、経済的発展を遂げた国も含めて、東南アジア地域の大半の国で依然として問題になっています。貧困に加えて、栄養価の高い食べ物を欠いた伝統的な食習慣、乳児への不十分な栄養補給、衛生的ではない水やトイレ、栽培する農作物の種類の少なさといった要因が存在します。子どもたちが発育阻害になると、保健や教育を含めた他の分野の発達に影響を及ぼし、人生の可能性を左右するのです。
本報告書は、発育阻害がカンボジア、ラオス、ミャンマー、およびインドネシアとフィリピンの一部で最も広がっていることを明らかにしています。
子どもの栄養不良はまた、各国の経済にも重大な影響を与えます。両親の生産性を減少させ、保健医療システムにも負担をもたらします。非伝染性疾病、障がい、さらには死さえも招くことがあり、潜在的な労働力を減少させます。インドネシアの非伝染性疾病による経済コスト(その多くは食事に関連)は、年間2,480億米ドルと推定されています。そのほか、本報告書は以下の事項を報告しています。
タイでは、現在でも過体重は最も裕福な家庭でよく見られる(最も裕福な20パーセントの中では15パーセントであるのに対して、最も貧しい20パーセントの中では9パーセント)。一方で、子どもの消耗症の割合は、富裕層・貧困層どちらの家庭でも同様の水準にある(いずれも約7パーセント)。
ASEAN全体で1,700万人の発育阻害の子どもたちのうち、4分の3近くにあたる1,200万人が、インドネシアとフィリピンで暮らしている。
ラオスでは、発育阻害の子どもたちの割合が44パーセントと、ASEANのなかで最も高くなっている。農村部の子どもたちの発育阻害は49パーセントなのに対して、都市部では27パーセントと、農村部と都市部で明らかな格差がある。
発育阻害は貧困と関係し、最も貧しい20パーセントの層で最も多くみられる。例えばカンボジアでは、上位20パーセントの富裕層では19パーセントなのに対して、下位20パーセントの最貧層では42パーセントの子どもたちが発育阻害に陥っている。
紛争や自然災害も、家庭の生計手段と、食糧や水へのアクセスを妨げることによって、子どもたちの栄養に影響を与える。このことが、やがて下痢やコレラなどの病気を引き起こす可能性がある。ASEANの中で最も災害の被害を受けている国はフィリピン。
毎年、ASEANの400万人以上の子どもたちが重度の消耗症に陥っているが、そのうち治療を受けているのは2パーセントに満たない。
栄養不良によるGDP損失の割合が最も大きい国はカンボジアとラオスで、両国とも毎年GDPの2.5パーセントの損失が生じている。
■対策
ユニセフとEU(欧州連合)は最近、インドネシア、ラオス、フィリピンを含めたアジア5カ国における栄養問題に取り組むため、5年間のパートナーシップを完了しました。
「このパートナーシップの目的は、各国政府が栄養に関して、保健分野だけでの対応を超えた総合的な取り組みを支援することでした」とユニセフのクリスティアーヌ・ルデルトは述べています。「例えば私たちは、労働問題である母親の出産育児休暇の改善や、農業分野の問題である栄養価の高い食べ物への家族のアクセス向上にも取り組みました」
報告書で提起された問題に対処するため、以下の事項を提言しています。
栄養不良の二重重荷:各国政府は、子どもたちに対するスナックや糖分の多い飲料の宣伝を規制し、学校での入手を制限する必要がある。
発育阻害と消耗症:各国政府は、乳幼児の母乳習慣の改善、急性栄養不良に陥っている子どもたちの治療、農作物の種類の増加、よりよい衛生習慣の推進、女子教育の維持、貧困削減の取り組みにおける支援を強化する必要がある。
自然災害:各国政府は、貧困、栄養不良、地理的な脆弱性などの最もリスクの高い地域に暮らす子どもたちの状況を可視化する必要がある。また、緊急物資、研修、指針などを整え、災害から回復する力をつける必要がある。
経済コスト:各国政府は、子どもの栄養不良のコストを検討し、その対処により多くの投資を行わなければならない。子どもの生後1,000日間の期間で栄養に使われるコスト1米ドルあたり、平均45米ドルを節約することができる。最大166米ドルを節約できる場合もある。
「ユニセフとEUのパートナーシップと、ASEANの栄養に関する報告書は、国際的なパートナーシップと南南協力を通して、何を達成し、何を学べるかを示すよい例です」とユニセフのクリスティアーヌ・ルデルトは述べました。「このような結果を踏まえ、私たちは子どもたちに対する栄養分野の政策と行動を強化すべく、ASEAN諸国とともに取り組みを続けます。いま幼少期の栄養に対して投資を強化することにより、各国政府は国民や国のよりよい将来を保証することができるのです」
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■ユニセフについて
ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念を様々な形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。(http://www.unicef.org/)
※ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する36の国と地域を含みます
※ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています
■日本ユニセフ協会について
公益財団法人 日本ユニセフ協会は、先進工業国36の国と地域にあるユニセフ国内委員会のひとつで、日本国内において民間として唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、政策提言(アドボカシー)を担っています。 (http://www.unicef.or.jp/)
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Schoowell(スクウェル)事務局 一同